伝わる熱

 寝返りをうつと、すぐ目の前に彼の顔がある。私は驚いて思わず目を見開いた。遅れて思い出すのは、彼が今日は休日であることだった。規則正しい寝息を立てながら、子どものように眠っているその頬に触れてみたくて、そっと手を伸ばす。
「眠れないのかい?」
 目を瞑ったまま、彼は私の手のひらを握った。
「起きてたの?」
「ああ。君が起きているような気がして」
 彼が私に向き直る。なんだか照れくさくて、私は彼の胸に顔を埋めた。布触りの良いシャツの感触が心地良い。
「僕はどこにも行かないよ」
 これでは、まるで。
「だから、おやすみ」
 私のほうが、子どもみたい。
「おやすみなさい」
 温かな熱につつまれて、私は子どものように眠った。





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