Sword

「ロミオとジュリエット、ね」
 ジュディスが唐突に話し出す。頭の回転が速いからだろう、彼女は時々、現在起きている出来事とは全く関係ない話を始めることがあった。いつの間にか慣れてしまったが、出逢ったばかりの頃は何度か戸惑った記憶がある。
「何がだい?」
「あなたと私」
 どこか遠くを見つめる瞳には、美しい夕焼けが映っている。
「どういう意味かな?」
「ギルドと帝国は敵対していた。もしそのままだったら、私たちはロミオとジュリエット。特にあなたは帝国の騎士団長だもの、きっとお付き合いするのは難しかったでしょうね」
 彼女が目を細めながら言う。ここザーフィアスの夕焼けは、僕には見慣れた色だ。だが、彼女は目が慣れてしまう程ここにいるわけではなかった。昔から行き来している場所ではあるだろうけれど、こんなに鮮やかな夕焼けは滅多に見られない。
「眩しいかい?」
「そうね。あまりにもまっすぐな色でしょう、夕焼けの色って。少し眩しいわね」
「僕は好きだよ。昼と夜の間を繋ぐ、大胆で美しい色だから。まるで君みたいに」
「私はあなたに似ていると思うけれど?」
「そうかな?」
 夕焼けが自分に似ているだなんて、考えたこともなかった。いつだって彼女は、僕に新しい視点をくれる。
「まっすぐで大胆なところがね」
 彼女には、僕がそう見えているのだろう。
「ロミオとジュリエットにはならないよ」
「え?」
「僕はどこにいても君を探し出す自信があるし、どんなに反対されても自分の想いに嘘はつけないから」
 まっすぐに彼女の目を見つめる。何度目かの瞬きのあと、
「私も。もう迷ったりしないわ」
 彼女は頬を夕焼け色に染めながら、ふわりと微笑んだ。





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